辛いですよね。
ですがその思い、大切なのかもしれません。
< 本文は:物語風に4分 >
目次
1.タウパの前書き
2.長いあいだ辛い気持ちを背負ってきた人生の先輩
3.遠いところへ馳せる思い
4.辛い想い出
5.罪悪感が生まれた日
6.薄れない罪悪感や後悔
7.背負って生きていく
8.大切にもちつづける
9.まとめ
それでは、物語のように、どうぞ
1.タウパの前書き
こんにちは、島に住む10才のタウパです。
どふぁら兄ちゃんは、やさしい。
それは、悲しいことがあったからかな?
ときどき、
さみしそうにするんだってばぁ。
2.長いあいだ辛い気持ちを背負ってきた人生の先輩
島に流れついた外国の漁船が、漁につかう網です。
浜辺にならぶヤシの木のあいだに、ハンモックのように張ってあります。
そこにどふぁらが両足を地面におろし、海のほうをむいて座っていました。
その後ろ姿を、母屋の床にあぐらをかいた、70すぎのガテがみています。
「ねぇ、ひいおじいちゃん、どふぁら兄ちゃんまた、暗い気持ちになってるみたいだよ」
タウパが一方の手をガテの肩にかけ、膝立ちになっています。
「ぼくがなにか言っても、どふぁら兄ちゃん、なんでもないってしか、言わないから、ひいおじいちゃんが聞いてみてよ。どふぁら兄ちゃん、かわいそう」
ガテはやせた体をして、腰に茶色い布をまいています。
「楽になればいいが……」
ゆっくり立ちあがりました。
3.遠いところへ馳せる思い
白い砂に、ヤシの葉が黒い影を落としています。
「そのままじゃ、そこに座ったままでいいじゃ」
ガテが、どふぁらの斜め後ろに、あぐらをかきました。
褐色の肌をした胸を、かすかにふくらませ、静かに呼吸をします。
「ここへくる前の、海のむこうへじゃな」
どふぁらが遠くへ視線をおくったまま、小さくうなずきました。
「わしは、ここで、ずっと昔のことじゃ。いまだにそこへ、思いを馳せる」
通りすぎていく風のような、静かな言い方です。
「わしがタウパと、おなじ年ぐらいのころじゃ。わしより1つか2つ下の、妹がおったじゃ。わしのことが好きで、いつもくっついて歩いとった。ターケという名じゃった」
4.辛い想い出
「みんなで鬼ごっこをすると、いつもターケは、わしの後について走っとった」
肩を落として、息をはきました。
「子供たちが10数人おった。集落から遠くない林の中じゃった。木々の合間に子供たちの走る姿が、みえかくれする。ターケは、足の裏にケガをしとった。家にいるように言ったが、ついてきたじゃ。わしの後ろを走っとった。しげみにかくれていた鬼がとびだしてきて、わしは驚いた。つかまって鬼になって、必死にその子を追いかけた。鬼がかくれていたのが見抜けずに、悔しくてムキになったじゃ」
ガテが言葉をきりました。
「それまではターケのことを気にかけて、ちょくちょく後ろをふり返っとった。それなのにムキになって、追いかけることに気をとられたじゃ。その子をつかまえてわしは、鬼じゃなくなった。後ろをみたら、ターケがおらん。わしはみんなからはなれて、ターケをさがしたじゃ」
5.罪悪感が生まれた日
ガテのやせた胸を風が、やさしくなでているようです。
ガテの耳の横で白い毛が、かすかにゆれています。
「次の日じゃ。集落の大人たちが、林へ入った。じゃが、ターケはみつからなかった。次の日も総出でさがしたが、ダメじゃった」
ガテの肉の落ちた両肩が、さがりました。
「精霊が、どこかへかくした。野犬におそわれて食べられた。などと憶測がでて、別の場所にいるという話もあったじゃ。父親が、隣の集落へ聞きにいったが、知る者はいなかったじゃ」
6.薄れない罪悪感や後悔
ガテのまわりで、ヤシの葉の影がゆれていました。
ガテの視線が、砂へ落ちています。
「それから今まで、何度ターケを思ったか。足の裏にケガをしとるんじゃから、家にいるようにもっと強く言っていれば。どうして、後ろをふり返らなかったか。ムキにならなければ、と自分を責めたじゃ」
ガテの声がふるえています。
「夢なのか、眠りながら思いだしているのか、わからん。追いかけていた林の中の光景が流れるじゃ。わしがムキになって走っとる。ターケがいないんじゃ。辛くてうなり声をあげ、目を覚ます。いまだにじゃ」
砂の上で、ゆれる影をみつめています。
顔をあげ、視線をどふぁらのほほへむけました。
「なにか罪滅ぼしがあれば、それを必死にやって気がまぎれると、いいんじゃが……」
ガテが立ちあがりました。
片手をどふぁらの肩におき、ゆっくり足を進めます。
7.背負って生きていく
どふぁらと話したタウパが、母屋へもどりました。
あぐらをかいているガテの、前に立ちます。
「どふぁら兄ちゃんが、自分もはやく口にだして、話せるようになりたいって。この島での暮らしを、必死に生きてるって。すごく気がまぎれるし、罪悪感とこんなにむきあえるとは、思わなかったって。背負って生きていくんだって思えて、楽になったって」
ガテが海のほうへ目をむけました。
ヤシの木のあいだに、どふぁらが座っています。
8.大切にもちつづける
どふぁらをみているガテの横顔へ、タウパがつづけて言います。
「それとね。ひいおじいちゃんから話を聞いて、安心したって」
ガテがゆっくり、タウパへ顔をむけました。
「どふぁら兄ちゃん、忘れられないことを思うと、怖い気がするけど、忘れることを思ったら、もっと怖いって。ひいおじいちゃんみたいに、大切にもちつづけられるんだって、わかったって」
白髪の先が、小さく動いています。
「もちつづける……」
ガテがまた、どふぁらに目をむけました。
「そうかもしれん。わしの中でターケが、生きとるじゃ」
9.まとめ
こんにちは、どふぁらずら。
自分を責める気持ち、辛いずら。
んだが、
大切に背負っていく。
ほんでもって、
楽しいときや、そうじゃないときを、すごしていくずら。
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