どうすることもできない津波。
家族が大切だから。
< 本文は:物語風に4分 >
目次
1.タウパの前書き
2.津波がくる!
3.海が島をとおりこしていく
4.訓練は訓練でも
5.客人用の飲み物を
6.覚悟をきめる
7.だれかにつたえたい
8.言葉にしなくても
9.おだやかに……
10.まとめ
それでは、物語のように、どうぞ
1.タウパの前書き
こんにちは、島に住む10才のタウパです。
島の人たちは、
海や空なんかから、自然の強さをしってるんだってばぁ。
この星は生きてる。
だからいつか必ず、その時がくるんだって。
どうすることもできない。
だからやるんだって。
2.津波がくる!
ほかの国から主島へおくられてきた連絡が、離島へ無線ではいる。
役場からとなりの集落へ伝言がとどき、そのとなりの集落へと順につたえられる。
「もう少しはやければ、漁にでるのをとめられたじゃ。走れる者をさがすじゃ。漁へでた者を家にもどす」
70才をすぎたガテがあぐらをかいたまま命じ、あわてて立ちあがったタウパのお母さんが、ガテにむきました。
「なに! どふぁらが材料をとりに林へはいったじゃと――。ロボイアがヤシの木にのぼって樹液をとっとる、どふぁらをさがしにいかせるじゃ」
うなずいたお母さんが、いそいで母屋からでていきました。
腰を深くかがめてくぐる四方の軒下からはいった日の光が、屋根裏の高いところまで明るくてらしています。
3.海が島をとおりこしていく
制服の茶色い短パンをはいたタウパが、軒をくぐって母屋の床をふみました。
「小学校についたと思ったら、先生がすぐに家にかえるようにって」
タウパがガテの前に立ちます。
「ひいおじいちゃん、なにがあったの?」
「すぐにとおりすぎる波とはちがうじゃ。高いヤシの木とおなじか、それ以上に高くなった海が、島におしよせるじゃ」
タウパが目を大きくひらきました。
「一巻のおわりじゃ。島の陸地は、潮が満ちた時の高さといっしょで平坦じゃ。海が島をとおりこしていく。ヤシの木をなぎたおし、島中の家や人を、すべてさらっていくじゃ」
4.訓練は訓練でも
「嫁にいった者たちは、嫁ぎ先で最後をむかえるじゃ。息子や孫たちを集めるじゃ。家族ぜんいんで、最後をむかえる」
タウパが首をかしげました。
「最後っていうけど、それってほんとうじゃなくて、訓練なんでしょう。小学校でもするよ。教室の屋根は葉っぱが、乾燥してて火がついたら、あっという間に燃えくずれるから、いそいで外へでる訓練。訓練は、自分の身をまもるためだって先生が――」
ガテが目尻のしわを深めました。
「普通はそうじゃ。じゃが、この訓練はちがう」
やさしいしゃべりかたです。
「覚悟をきめる訓練じゃ。覚悟をきめて、おだやかに逝くじゃ」
5.客人用の飲み物を
海からふいてくる風が、屋根の下をとおって、島のおくのほうへ流れていきます。
床には、ヤシの葉をあんだマットがしかれ、枯れて茶色くなっていました。
その中ほどに緑色をした若いヤシの実が飲み物として、ほかにイモや干し魚などの食事が用意されました。
「家では、お客さんがきた時ぐらいしか、若いヤシの実なんて、飲めないのに」
実を前においてあぐらをかいたタウパが、魚とイモをそれぞれの手にしています。
大人たちが床をかこんであぐらをかき、子どもたちは親とむきあって、すわっていました。
ガテが背筋をのばし、そこをとおる風に言葉をそっとのせるようです。
「豚や犬にも食べさせるじゃ。わしらは自由に飲み食いして、覚悟をきめる」
6.覚悟をきめる
みんなていねいな仕草で、食べたり飲んだりしました。
胸の前で干し魚を持ち、屋根裏をみつめる女がいます。
りょう肘を膝につき、すぐ前の床に視線をとめている者がいました。
男があごに片手をあて、うつむいて考えているようです。
タウパがりょうほうから、首をうしろへまわしました。
≪みんな、いつもみたいに、おしゃべりしない。過去をふりかえってるんだ。いろんな人とお別れしてる……≫
もう一度ゆっくり首をまわします。
≪おじいちゃんは、まじめな顔をしてるけど、ひいおじいちゃんと、ひいひいおじいちゃんは、口をゆっくりうごかしながら、ほっぺと目がほんの少しだけ、ほほえんでるみたいだ。たくさん生きたからかなぁ……≫
7.だれかにつたえたい
みんなお腹や気持ちが、おちついたようです。
ガテが家の外へ目をむけ、影のでき具合から太陽のいちをかくにんし、津波がくるまでの間を計りました。
「なにかつたえておきたいことがある者は?」
ガテの父親のクンが、口をひらきました。
「なにもわざわざ、それぞれが思いを、口にださんでもいい」
タウパの前にすわるお母さんが、よこをむきました。
お父さんが顔をお母さんへむけ、その目をやさしそうな目でお母さんがみます。
お父さんの目が、それにこたえるようでした。
8.言葉にしなくても
タウパがまわりをみました。
ガテが横にすわる妻と目をあわせます。
いくつものやさしい目に、なみだがうかんでいました。
タウパがどふぁらへ顔をむけます。
どふぁらが親にあたる、ロボイアとその妻のタボタと、目で言葉をかわしています。
そして兄姉の、タウパのお父さんとお母さんとも。
その顔をみているタウパに、気付きました。
≪どふぁら兄ちゃん、海がおしよせてきたら、いっしょに泳いでにげようよ≫
タウパがほほえみました。
≪だけど、きっとそんなことできないんだよね。できるなら、どふぁら兄ちゃんが、とっくにぼくにいってるし――。だったら天国でね、やくそくだよ≫
9.おだやかに……
≪あっ、お父さんとお母さんが、ぼくをみてる……≫
タウパの黒い瞳が、左右にうごきました。
≪そんなぁ。りょうほういっぺんに、みれないってばぁ≫
お母さんと目をあわせました。
≪エッ! 私たちのもとへ、生まれてきてくれて、ありがとうって……≫
お父さんと目をあわせます。
≪お前をまもってやれず、もうしわけないって、も――≫
肌をなでながら風が、とおりぬけていきます。
ガテが発しました。
「くるじゃ――。目をつぶって、ゆっくり息をするじゃ」
10.まとめ
闇へ光をみちびき、青い空と海のひろがる、この世界をつくって空へあがった、
天の川に寝そべる大男のブアがいる。
島の者たちは、ブアが災いから自分たちを、まもってくれる、
そう信じてるずら。
それでも訓練する。
家族を大切にしてるずら。
おっと!
大切にするずら。
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