何十年もたったのに、気持ちはそのまま。
もっといっしょにいたいのに、どうしていっちゃうの?
本文は:物語風に3分
もくじ
1.タウパの前書き
2.夫婦のどちらかが、どちらかにつたえる約束
3.頭と体が、ちゃんと動くうちに
4.ひとりでそっといった妻・みんなに見送られる夫
5.あたたかい気持ちにつつまれて
6.大人の誇り、それとも親の愛情
7.天国からのお迎え
8.まとめ
それでは、物語のように、どうぞ
1.タウパの前書き
そういわれてみると、集落には、
寝たままの、
おじいちゃんや、おばあちゃんが、いないかも?
細い足でも、
杖をつかったり、肩をかりたりして、
あるいてるってばぁ。
2.夫婦のどちらかが、どちらかにつたえる約束
母屋の床には、ヤシの葉をあんだマットがしかれています。
そこに立ったハチが、自分よりすこし年上の90歳をすぎたクンをまえにして、あぐらをかきました。
「クンには、話しておこうと思ってな」
つづけてハチが口をうごかします。
「わしは、あれといっしょに、天国へいくつもりだった。あれが、訳のわからんことをいいだして、頭がおかしくなったのがわかった。じゃからわしが約束どおり、そろそろじゃ、と、あれにつたえたじゃ。そうしたらつぎの朝には、いなかった。ひとりで、とっとと天国へいっちまったじゃ」
自分の妻について話しました。
3.頭と体が、ちゃんとうごくうちに
床を四角くかこむ屋根の軒はひくく、はいった光が屋根裏を明るくてらします。
ハチがゆっくりしゃべりました。
「息子や孫は、わしにいいにくいじゃ。頭がへんになっても、自分じゃわからん。じゃがもう、わしにつたえてくれる者はおらん」
ハチが片手で、いっぽうのふくらはぎをこすりました。
「そろそろじゃ、体がいうことをきくうちに。あるけんようになってからでは、おそい。月がなくなったら、いくじゃ」
いくのは天国です。
クンが顔を、横に座る妻のカローアへむけました。
「わしらも、そろそろ天国じゃな、ばあさん」
カローアがしわのよった唇をうごかします。
「そうですねぇ。わたしはおじいさんといっしょに、いきますよ」
4.ひとりでそっといった妻・みんなに見送られる夫
クンがタウパの従姉の16歳のボアタをよびました。
ボアタが、あぐらをかいているクンのまえに立ちます。
「集落の家を1軒ずつ、たずねるじゃ」
ボアタが面倒くさそうに、鼻にしわをつくりました。
「それでどうするの?」
「月のない新月の夜、ハチが空へあがる。そうつたえるじゃ」
ボアタがおどろいたように、目を大きくしました。
5.あたたかい気持ちにつつまれて
集落の中をとおる道は、りょう側にパンの木が立ちならび、道をおおう枝葉のあいだからはいった星の光が、黒い地面に青白くゆれています。
ハチが木の枝を杖にして、ゆれる光を裸足でふんであるきました。
まえをむいて、ゆっくり足をすすめます。
新月の夜、漁へでようと男たちが、家で潮の引くのをまっていました。
その妻が、ささやくようにいいます。
「ひとりで先にいった奥さん、子どもたちへの思いが、よっぽど強かったのかもしれないわねぇ」
「愛があれば、こそだ。自分のしめくくりは、頭がしっかりしてあるけるうちだ」
木々のあいまにハチの姿が見え隠れします。
「林へはいれば、すぐに天国へいけるわね。おつかれさま」
「ああ、ほんとうに、長いあいだ、おつかれさまでした」
集落の者たちが思い思いに、おわかれをいいました。
6.大人の誇り、それとも親の愛情
枝葉のつくるトンネルをでると、道のりょう側にヤシの木が立ちならびます。
幹に隠れるように、ボアタとタウパが立っていました。
ボアタが眉を強くよせました。
「なんだと、タウパは寝床で、ウンコやオシッコをしたいっていうのか? 頭がおかしくなって、へんなことやったり、いったりしたいのか。家の仕事ができないのに、食ってねたいのか――」
タウパが、うれしそうに笑顔になります。
「うん、食べて寝るだけがいい」
「いたっ、頭たたかないでよ――」
「自分の子どもや孫に、迷惑をかけたくないんだ。大人の誇り、っていうのらしい。まだ小さい自分の子どもが、具合がわるくなって死にそうになったら、自分の命をあげてもたすけたいと思う。その気持ちが、何十年たってもかわらない。だから天国へいく」
タウパが顔をうごかしました。
「きたよ、ハチおじいちゃん、やさしそうな顔してる」
7.天国からのお迎え
道が砂浜につきあたり、ハチが道をまがりました。
ボアタとタウパが道にでて、ハチの後ろ姿をみおくります。
「ハチおじいちゃん、もう、おばけになってたりして?」
ボアタがまた、タウパの頭をたたきました。
「いたいなぁ。だって新月の夜は、死んだ人がよくでてくるじゃないか」
ボアタがおどろいたように、顔を引きました。
「ほら、ハチおじいちゃんの奥さんが、でてきたじゃん」
「わたしにもみえる。ハチおじいちゃんの横を、いっしょにあるいてる」
8.まとめ
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