こもり人の中にはきっと、孤高の人がいる。
〇やさしい人以上に、やさしい人
目次
1.タウパの前書き
2.おだやかで、ふつうに親切
3.やわらかな笑み
4.とってもやさしい
5.あえてひとりならこもり人、それとも孤高の人
6.集落からはなれて暮らし、こもり人のよう
7.人とちがうが、すばらしい人柄
8.まとめ
1.タウパの前書き
こんにちは、島に住む10才のタウパです。
ここに登場する男の人は、
あんまり会わないし、口もきかない。
だけど、
普通にやさしいんだってばぁ。
遊んでるぼくたちに、笑顔をむけてくれるんだってばぁ。
2.おだやかで、ふつうに親切
どふぁらは、林でひとり、作業をしていました。
枝を切りだしていて、いい枝をさがしているうちに、道に迷います。
日が暮れたので、ヤシの木によりかかるように座り、そこで夜をすごすことにしました。
すっかり暗くなって、まもなくです。
男の声が、やわらかな言い方をします。
「どうしました?」
どふぁらが顔をあげ、前に立つ人影を確認しました。
悪い人はいないので人には驚きませんが、人の近づく気配に気づかなかったことに、すこし驚きました。
「集落へ帰れなくなったんですね」
男はどふぁらだとわかり、そう言ったようです。
「いきましょう」
男が背をむけて歩きだし、立ちあがったどふぁらがあとを追います。
星の明かりが枝葉にさえぎられ、男の影が闇にまみれました。
すぐに青白い光の中にあらわれます。
3.やわらかな笑み
ヤシの実の殻をわった器に灯る、オレンジ色の小さな炎が、ヤシの葉の芯をならべた床を照らします。
軒先から男が言ってきました。
「食べてください」
すっぱだかになって井戸で、汗とほこりを流したどふぁらは腰に布をまき、イモと日に干した魚を食べ、ヤシの樹液を飲みました。
こぢんまりとした広さの床です。
屋根裏にひもがはってあり、そこに丸めて収納していた寝具に、風をとおしたようでした。
「これをつかってください」
マットが丸まって高床におかれ、男の顔がゆれうごく炎をうけます。
≪まだ、若い。30代半ばずら。おいらより、5つぐらい上なだけずら≫
どふぁらは、男の落ち着いたしゃべり方やふるまいから、年がもっと上のように感じていました。
あぐらをかいたまま、背筋をのばします。
「うううっ」
うまくしゃべれないどふぁらが、お礼を言うようにうなりました。
炎の灯りが、男のやわらかな笑みをうつします。
4.とってもやさしい
どふぁらは火を消し、手さぐりでマットを確認し、あおむけになりました。
ふいてくる風がねむりをさそい、ほうきが地面をこする音のしない、静かな朝をむかえます。
木々のあいだが、みるみる明るくなっていきました。
高床のはしに、ヤシの樹液のはいった球状のヤシの実の殻と、それを飲む、殻をふたつにわった器がおかれ、その横には、緑色をした葉を皿がわりにして、白いものがふわっ、と盛ってあります。
ヤシの実の果肉を、けずったものでした。
≪果肉を殻から、はがすだけでじゅうぶんなのに、わざわざ、食べやすくしてくれてたずら≫
どふぁらは寝具のマットを丸め、立ちあがってひもの上におさめ、朝食をいただきます。5.あえてひとりならこもり人、それとも孤高の人
ヤシの木が立ちならび、その先の幹のむこうが、ひらけています。
人の踏みかためた道が、敷地からつづいていました。
ヤシの木のあいだから浜へでると、そこに広がったのは、見覚えのある海でした。
浅瀬が広がり、リーフのむこうの海が色をふかめています。
一方は、ヤシのしげる島が海のほうへ湾曲し、もう一方は集落の外れの、小さな半島へつづいていました。
どふぁらが、今きた男の敷地へもどります。
かまどの小屋と、どふぁらのねむった高床の家の、二軒が建っています。
≪島の暮らしは、人手がいるずら。ひとりで暮らしているとしたら、たいへんずら。あれは、もしかして!≫
かまどの小屋の横におかれた枝に、目がいきました。
手首ぐらいの太さをして、両腕を広げたほどの長さの、比較的まっすぐな枝が10本近く、ツルをつかって束ねてあります。
昨日どふぁらが、林で切りだした枝です。
≪かつぎやすいように、縛ってあるずら≫
やさしさを通り越し、誇りのようなものを感じました。
海とは反対がわへ、木々のあいだの草むらを道がつづき、見覚えのある道に合流しました。
6.集落からはなれて暮らし、こもり人のよう
敷地へ入ると、女の大きな声が響きました。
「帰ったか。ゆうべは、林でねむったんだな。やるじゃないか!」
どふぁらの従妹にあたる、16才のボアタでした。
どふぁらは肩から枝をおろし、かまどの小屋にいるボアタにむいて立ちます。
「うっ、うう」
「はらが減ったんだな。今、食わせてやる。母屋に座ってろ」
ボアタが、ヤシの葉をあんだマットを、屋根のつくる影にしきました。
「ほら、ここで食え」
ボアタは、口は悪いですが、気立てがいいです。
どふぁらが塩ゆでしたエイの切り身を、つかみました。
ボアタがマットに膝立ちになります。
「林で、おばけに会わなかったか?」
どふぁらが、口の中のものを飲みこみました。
「うううっ、う」
ボアタは勘が鋭く、さっしてくれます。
「だれかの家でねむったって。林の奥に家なんてないぞ」
ボアタが、パッと口をひらきました。
「まさか、テアラワのことじゃないだろうな! 林の奥じゃなくて、海の近くか?」
どふぁらが、うなずきました。
7.人とちがうが、すばらしい人柄
ボアタからテアラワについて聞いたどふぁらは、お礼にわたそうと考えていたイモを、持っていくのをやめました。
≪気やすく近づくべきじゃないずら。テアラワの生き方を尊重するずら≫
それからしばらくしてです。
テアラワには、たったひとり自分から話しをする、叔父がいます。
叔父のところへ、コプラの入った布の袋を、担いできた姿をみかけました。
船がくればコプラが、現金になります。
人をつよく避けているわけではないようですが、テアラワは集落でおこなう会合や催しに、くわわりません。
唯一正式に、葉を染めたりしてつくった衣装を身につける、歌とおどりが披露されるときには、集会場の外に立って、腰をかがめるテアラワの姿が、見受けられました。
集落の人にテアラワは、人とちがうが、すばらしい人柄だと言われています。
8.まとめ
こんにちは、どふぁらずら。
テアラワは、こもり人みたいずら。
んだが、
おいらは、孤高じゃないかと思う。
それも、
へんな意味のまざらない、気高いほうによった。
やさしい人以上に、やさしい人だったずら。
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