子どものころ、ヒーローっていませんでした?
ほんの少しのことで――。
< 本文は:物語風に2分 >
目次
1.タウパの前書き<小さい子のほうが、もっと好き>
2.ぼくのヒーロー
3.すぐにじょうずになるから
4.ヒーローだから、きっと――
5.べつのお父さんは、じょうずになったのに――
6.目にうかぶなみだ
7.まとめ
それでは、物語のように、どうぞ
1.タウパの前書き <小さい子のほうが、もっと好き>
こんにちは、島に住む10才のタウパです。
ぼくも、お父さんが好き。
だけど、ぼくより小さい子のほうが、
もっと、もっと、
お父さんを、好きだってばぁ。
2.ぼくのヒーロー
ヤツツは、2年生の男の子です。
はずむような声でした。
「お父さん、ブタ小屋のかこいの修理のつぎは、母屋の屋根をなおすんだ――」
「葉が古くなって、雨がもるようになったからな」
軒にちかいところでした。
お父さんが、屋根のしたに立ってりょう腕をあげています。
「お父さん、魚もいっぱいとってくるし、いろんなものをすぐなおして、なんでもじょうずにできて、すごい」
「よし、これでしばらく、だいじょうぶだ。どうだヤツツ、いくぞ――」
お父さんが、ヤツツをだきあげ、そのまま3歩すすみました。
腰をおとしたかと思うと、膝を勢いよくのばし、ヤツツが屋根裏の高いところへむかって、飛びあがります。
「うわっ、高い!」
おちてくるヤツツの脇のしたに、お父さんがりょう手を入れて膝をまげ、ヤツツのりょう足が、そっと床につきました。
「お父さん、めちゃくちゃ力があって、すごい――」
お父さんはヤツツのヒーローです。
3.すぐにじょうずになるから
朝、小学校へいくまえでした。
母屋の床にあぐらをかいたヤツツが、ヤシの実の殻のうつわを、りょう手で持っています。
「きのう、イヤだっていったもん。水でうすめた樹液なんて、おいしくないから、飲みたくない。どうして今日も――」
あぐらをかいたお母さんが、こまったように眉をよせました。
「となりのおじいさんと一緒に、うちのおじいちゃんが、小学校の先の集落へいってるででしょう。だから、お父さんが朝も夕方も、ヤシの芽を切って、樹液を採ってるのよ。すぐにじょうずになって、たくさん採れるようになるから、もう少しがまんして、おねがい」
4.ヒーローだから、きっと――
家のたつ敷地をかこむヤシの木のうちの、1本でした。
お父さんが口にナイフをくわえ、手にひもをむすんだ丸いヤシの実の殻のうつわを2つさげ、幹をあがっていきます。
ヤツツが頭をうしろに倒し、お父さんをみつめます。
≪かっこいいなぁ≫
片足をおおきくあげ、反対側の腕をうえにのばし、葉のしんに手をかけました。
≪きっと今日は、樹液がいっぱい採れる≫
お父さんが葉のしんに立ちます。
5.べつのお父さんは、じょうずになったのに――
1週間たった、小学校のかえりです。
ヤシの木のあいだをつづく道を、となりの家のツンスがまえを歩いています。
ヤツツが走って横にならびました。
「やんなっちゃうよね、ツンスの家でも、おじいちゃんがいないから今、水でうすめた樹液を、飲まされてるでしょう」
「さいしょはね。だけど今は、うすめないで樹液だけ飲んでる。お父さん、すぐにじょうずになったから。お父さん、かんたんだっていってた」
ヤツツが瞳を、左右にうごかしたかと思うと、走りだしました。
6.目にうかぶなみだ
ヤツツのお父さんが、樹液の入った丸いうつわをさげて、ヤシの木をおりてきます。
地面にたったお父さんの腰に、ヤツツがだきつきました。
「お父さん、水でうすめた樹液なんて、いやだ。いやだ、いやだ」
ヤツツが、心のなかからつづけます。
≪お父さんは、なんでもじょうずにできる、ぼくのヒーローなんだから――≫
ヤツツが目に、なみだをうかべていました。
≪ヒーローでいなくちゃだめ……≫
7.まとめ
純粋。
ほんの少しのことで、傷つくずら。
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