今も胸のうちでかがやいてる。
栄光におぼれたら毒。
< 本文は:物語風に4分 >
目次
1.タウパの前書き <3人のすごい人>
2.挑戦・栄光を、こんなふうに自慢できたら、うらやましい
3.精いっぱい・いくらすごいことでも遠慮がちに
4.同志・真剣に挑んだからこそ、悔い恥じるのかもしれない
5.止まっていれば毒・成長していれば栄養
6.まとめ <栄光は、かがやかせろ>
それでは、物語のように、どうぞ
1.タウパの前書き <3人のすごい人>
こんにちは、島に住む10才のタウパです。
ひいおじいちゃんから聞きました。
むずかしいことに挑戦した、すごい人がいるって。
何十年も前の、ことです。
その人たちに、話を聞いてみたいって、
どふぁら兄ちゃんが、言うんだってばぁ。
2.挑戦・栄光を、こんなふうに自慢できたら、うらやましい
家のたつ敷地が、島の反対がわまでつづくヤシ林を、背にしています。
ヤシの葉がつくる影にしいた、ヤシの葉をあんだマットに、どふぁらとタウパ、そしてもう1人男が、あぐらをかきました。
男は、60代なかばのトトジ、小柄で腹がでています。
空をあおぎ、口を大きくあけて笑いました。
「そうだ、そうだ。昨日のことのように、よく覚えてる。俺は、あいつに挑んだんだ。釣りあげてやろうと、カヌーで海にでた。なんども、なんどもだ」
トトジとむかいあうように、どふぁらとタウパが別のマットに座っています。
「やつは、島の先端をすみかにしてた。体長は俺の背とおなじぐらいだが、胴回りは――」
トトジの片手が、自分の腹をたたきました。
「でかいぞぉ。胴回りは、大人が2人腕を広げないとつつめないほどだ。それでいて、顔の小さい魚だった」
トトジが目をかがやかせます。
「ああ、そいつより小さい魚なら、けっこうあげた。それが家族の食いぶちになったから、やつへの挑戦をつづけられた。あげたどの魚も、やつに匹敵するぐらいの、けっこうな大きさだったぞ」
トトジが、胸を張りました。
「結局やつを、釣りあげられなかった。だが、挑戦した。あいつに挑戦したことに俺は、自信を持ってる。こうやってよく、みんなに話したものさ。俺の最高の自慢だ」
トトジがまた、空にむいてうれしそうに笑いました。
3.精いっぱい・いくらすごいことでも遠慮がちに
腰の高さよりも低くつくった床には、乾燥したヤシの葉の芯がならび、それがヤシの実の皮の繊維からあんだひもで、下の枕木にしっかり固定されています。
その床に、そろそろ70才になるであろうスンズを前に、どふぁらとタウパが座ります。
スンズは目じりに深いしわをよせ、口元に笑みをうかべました。
「なぁに、遠い昔のことじゃ。結局だめだった。じゃから、わしから話すのは、はばかられるじゃ。なぁに、聞かれて話すのは、悪くない」
3人の前には、ヤシの樹液の入った、ヤシの実の殻のうつわが、おかれています。
「釣り針をつくるのに、必死に貝をけずったじゃ。それを結ぶひもの太さにも、苦労したじゃ。なぁに、太くあめば、見むきもしない。細ければ、食いちぎられる」
スンズが、張りのある声で話します。
「あいつ以外の小物かぁ。そりゃあ、けっこうな数、あげさせてもらった。それでも、しばしばじゃ。満足に食えず、女房や子供には、苦労をかけたじゃ」
スンズがうつわを手にし、それを足の上で両手でつつみます。
「ああ、家族の食い物、そっちのけで精をだしたじゃ。そのときに、精いっぱいってことを、おしえてもらった。それがその後の、わしの支えになったじゃ」
片手でうつわを口へはこび、満足そうにひと口飲みました。
「もう、いつ話したか、忘れるぐらいじゃ。ひさしぶりじゃ、やつとのことを話すのは。なぁに、聞いてくれんかったら、話せんからなぁ、ありがたいじゃ」
4.同志・真剣に挑んだからこそ、悔い恥じるのかもしれない
敷地をかこむヤシの木のあいだに、黄色い実をつける木が、まるで人が実をとりやすいように枝を横に広げています。
その木陰に、どふぁらとタウパが、60を過ぎたブブグと座りました。
「そうだったのか、あらたまって、なにを聞くのかと思えば」
筋肉の落ちていないブブグの両肩が、少しさがりました。
「俺は、身のほどしらずの、大バカ者だった。できもしないくせに挑んで、やつに敗れた。俺は敗者だ。みっともなくて、人に話すようなことじゃない」
立ちあがったブブグが、黄色い実に片手をのばしました。
「そうさ、やつに挑んだのは集落で、たった3人だった」
ひとさし指の先ぐらいの実をひとつもぎ、下をむいたブブグのほほに、うれしそうな笑みがうかんでいます。
「3人で競いあうなんて、余裕はなかった。みんなやつに対して、必死だった。どうにか、釣りあげてやろうとな」
ブブグが足を交差させ、腰をおろしました。
その目に、力が入っています。
「ほかの2人も、思っとっただろうよ。だれがやつを、あげてもおかしくないと。そんな顔ぶれと、いっしょにできたことが、唯一の救いさ」
5.止まっていれば毒・成長していれば栄養
集落を海側とヤシ林側にわけるように、枝葉が頭上をおおう道がとおります。
黒い地面に、こもれ日がゆれていました。
タウパが、横を歩くどふぁらの顔をみあげます。
「おなじ挑戦をしたのに、みんなちがうんだね」
「ううっ」
しゃべれないどふぁらが、うなります。
それがタウパには、なんて言ったかわかりました。
「どう思ったって。ぼくは、自慢してたトトジさんより、ほかの2人のほうがいいな。精いっぱいがわかったとか、強い人といっしょにできたとか、いいと思った」
「うっ、ううっ」
「もしかしたらトトジさんはその挑戦で、止まってるかもしれないって、なにが止まってるの?」
どふぁらが、首をかしげます。
「うううっ」
「ほかの2人は、挑戦が栄養になって、体がでっかく成長できたのかもしれないって、意味わかんないってばぁ、も~」
前にだしたタウパの足の甲に、こもれ日があたりました。
こんにちは、どふぁらずら。
純粋に自慢するトトジ、ものすごくいいと思うずら。
んだが、そんなことはない、と思うが、
もしも!
成長のさまたげになっていたら、栄光にひたりすぎずら。
挑戦、精いっぱい、同志、
どれも、その人の胸のうちで、かがやいてるずら。
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